翻訳学習
2025.12.12
輪になって話そう、翻訳のこと(15)
右:イギリスからのカード。日本でもなじみの図柄です。

今年もクリスマスカードや年賀状の準備をする時がやってきました。クリスマスカードは、学生時代にホームステイでお世話になったイギリスの家族、実家にホームステイしたアメリカの女子高生の家族、そして会社員時代に取引先としてつきあいのあったオーストラリアの社長夫妻と、半世紀近く互いに送り送られしてきました。でも悲しいお知らせが届いて、ついに今年はイギリスの家族宛1通になってしまいました。
海外宛のクリスマスカードですから、当然英語で書くわけで、これがまた一苦労。かつては長々と近況報告を綴っていましたが、最近はそれができなくなって、キャプション付き写真の体裁で短い英文を書くだけになっています。今年はたった1通のカードだからこそ、短い英文に気持ちをたっぷり込めて、80歳を越えたイギリスの家族の幸せを祈ろうと思います。

さて先月、2025年第2期の文芸翻訳和訳演習オンライン講座が終了しました。終了と同時に年明け1月からの第3期の課題探しを始め、ようやく決めました。イギリスの文筆家ヴァージニア・ウルフの短編集から選んだ“Kew Gardens”。ずっとヴァージニア・ウルフは気になっていたのですが、課題としてはどうかと躊躇していたのでした。これまで取り上げてきた作品とは趣がまったく異なり、抽象的な表現が多い印象です。
まず一文が長く、どのような修飾具合になっているのか、どこで切れるのか、この代名詞は何を指すのかなど、英文解釈で読む者を惑わせます。たとえば冒頭の一文。
現在分詞形や過去分詞形が散らばっているので、それに惑わされないように注意します。骨格となるS+Vを見つけ出し、いくつかの句に分けて考えると、全体の構文が見えてくると思います。
そして英文解釈ができたとしても表現が独特なので、それをどう日本語にすればいいのか悩みます。たとえばこんな一文。
なんとなく直感的にこういうことかな、と理解できるかもしれません。木漏れ日の中を人の姿がだんだん小さくなって消えていく様子。どう訳したら読者に理解してもらえるか。
ここまで読んできて、え、じゃあやめた! なんて思わないでくださいね。たまには自分の力の少し上を行く文章と格闘するのも大事。読解力翻訳力を強化するのに避けてはいけないと思うのです。いかがでしょう、一緒に挑戦してみませんか? (第3期「文芸翻訳和訳演習オンライン講座」スケジュール等詳細はこちら)
なお彼女の人となりや作風についてはネット上でいろいろ書かれているので、調べてみてください。こちらのサイト「「キュー植物園」 ヴァージニア・ウルフ」も参考になります。
余談ですが、わたしが“Kew Gardens”を選んだ理由、それは2021年に『刺繍で楽しむイギリス王立植物園の花たち キューガーデンの植物画から生まれた刺繍図案』(河出書房新社)を翻訳出版したからです。縁があるなあと思って。実際のキューガーデンは、会社員時代にロンドンへ行ったとき素通りしてました。なんともったいないことを。う~ん、もうひと頑張りして、何十年ぶりかのロンドン旅行を考えてみましょうか…。

斎藤静代
東京外国語大学英米語学科(当時)卒。産業翻訳や大学受験添削指導を経て出版翻訳へ。出版翻訳歴20余年。訳書は『オードリー リアル・ストーリー』(アルファベータ)、『ロシアの神話』(丸善ブックス)、『ドラゴン:神話の森の小さな歴史の物語』(創元社)、『ママ・ショップ』(主婦の友社)、『千の顔をもつ英雄』(早川書房)、『バレエの世界へようこそ』『刺繍で楽しむイギリス王立植物園の花たち』(ともに河出書房)など。サン・フレアアカデミー誤訳コラムで「ノンジャンル誤訳研究」を執筆中。












