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エッセイ集『「やってみたい」と思った今がそのとき』を書き終えて

この度、サン・フレア アカデミー様より私のエッセイ集刊行に合わせて、「翻訳ひといきコラム」に著書の紹介文を書かせていただけるとのご配慮を賜りまして、心より感謝申し上げます。こちらでは執筆に際し苦労した点や、内容につきまして大まかに紹介させていただきたいと思います。
(花岡 理恵 字幕監修/翻訳実務士®(TQE韓日))

「やってみたい」と思った今がそのとき(花岡理恵 著、あさ出版)

私は44歳で韓国語学習を始め、51歳のとき、韓国ドラマの字幕監修者として配給会社コンテンツセブンに社員として採用され、現在はフリーの字幕監修者として仕事をしています。今回エッセイ集を刊行することになったきっかけは、昨年6月、『女性自身』という週刊誌の歴史ある看板コーナーで、私のロングインタビューが掲載され、その記事を読み関心を持ってくださった株式会社あさ出版の編集者の方が、エッセイ集執筆の依頼をしてくださったという経緯がありました。

韓国語教室のホームページに、コラムの連載を書かせていただくなどの経験はありましたが、丸々一冊の本を書き上げるのは初めてのことでした。突然のご依頼に驚くとともに、「いつか本を書いてみたい」という、実は子供の頃から胸に秘めていた夢もあったため、まさに今回出版される『「やってみたい」と思った今がそのとき』の本のタイトルそのままに、「できるだろうか?」という恐れよりも、「やってみたい」という思いの中で、このオファーをお受けすることにしたのです。

ふだん業務として行っている字幕監修という仕事は、翻訳者さんから納品された訳文(字幕)の内容を確認し、さらに読みやすくブラッシュアップするなど、作品全体のディレクションも含め最終的にオンエアできる状態までに字幕を完成させるものです。ですので、日々字数制限と戦いながら言葉と関わりつつ仕事をしているわけですが、しかし今回の執筆は、字数制限はないものの翻訳のように“原文”はなく、ゼロの状態から自分の考えをまとめて書いていくわけですので、どのような切り口で話を始めたらいいだろうか? 適切なエピソードは何だろう? と考える点が、一番苦労したと思います。そして伝えたいことの核心にマッチした、ふさわしい言葉や表現を探しながら、また読みやすい流れになっているかという点に気を配りつつ執筆を進めたのです。大変な作業ではあったのですが、同時に、やはり文章を書くことが好きなのだと確認もできたよい機会となりました。

ちなみに文章を書く道具は、万年筆を使いました。各項目につき80パーセント程度、内容が固まるまでは万年筆でノートに書きなぐっていきました。頭の中に浮かぶ思考を文章として受け止め、アウトプットするスピードに一番適していたのが万年筆のペン先だったようです。そして8割がた内容が固まったら、今度はWordに打ち込みながら、文章を整理し納品に備えました。

ペン先といえば、作家で随筆家の幸田文さんがお書きになった、「初日」という短い随筆があります。幸田さんが文筆活動を始めた頃は文章を書く際に、「よくしたいいろけなど、これんぽっちもなかった」けれど、慣れてくるとよくしたいという“いろけ”が鉛筆の先に寄り集まってくるという、ちょっとユーモラスな語り口の、しかし文章を書く際に肝に銘じたい内容の文章です。私が今回執筆を進める中で、一番気をつけたいと思っていたのもこの点でした。“いろけ”――余分な色付けや外連味を排除して自分の思考に集中し、心の奥の言葉が出てくるまで待つことを心がけようとしたのです。ですがそれは時間制限(納期)のある中では、とても大変でした。幸いなことに、すべての原稿の納期を守り納品できたことは、「ちょっと今、聖霊が降ったかな?」というレベルで、自分の能力を超えた風が吹いたことも、一度や二度ではなかったと正直に申し上げます。加えて恵まれていたのは、出版社様、担当編集者の方が、私の気持ちや考えを最後まで最大限に尊重してくださり、書かせてくださったことです。本当にありがたく深く感謝しています。

私は初めから今の職業を目指していたわけでも、職業に生かそうと韓国語の勉強を始めたわけでもありませんでした。ですからこの本はいわゆる“ハウツー本”のように、こうすればうまくいきますよ、というものにはなり得なかったのです。私がお伝えしたかったことは、自分の気持ちに素直になってみること、そしてその心のままに動いてみること。その先に何が待っていたとしても、それは自分自身を生きるという意味ですばらしいことなのではないでしょうか…ということを、自身の体験を交えながら読者の皆様に語りかけています。自分を信じて、自分の心の奥を見つめて恐れずに行動してみることが、幸せの一つのかたちではないかという気がしているのです。

もしこの本の中の言葉が、今、何かに迷っていたり躊躇なさっている方の“一歩”を踏み出すきっかけとなれたなら、望外の幸せです。

幸田文「初日」(『雀の手帳』 新潮文庫所収)

花岡さんの「TQE合格者インタビュー」もぜひお読みください

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