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海外だより

オーストラリアへの移住

私が現在暮らすケアンズは、街の中心から車で20分も走れば、馬を飼っている住宅も有る、のどかな田舎町。

前回の私のエッセイを読んでくださった方からメールを頂いた。家族旅行で訪れたケアンズを気に入り、移住、ケアンズでの起業を考えているとのこと。新型コロナウィルス感染拡大後、これまでの働き方やライフスタイルを見つめ直し、海外移住も検討されている方も増えたのではないだろうか。今回は、近い将来「オーストラリアへの移住」を考えているという方のために、私の経験の範囲内で、移住についてお伝え出来る事をご紹介したいと思う。

オーストラリアへ「本格的な移住」を考える場合、まず考えなくてはならないのはビザ(査証)の問題だ。ビザの種類によって滞在期限、労働許可、受給できる社会保障などが変わってくる。代表的なビザにはツーリストビザ、ワーキングホリデービザ、学生ビザ、ビジネスビザ、永住権等があるが、家族で本格移住を考えているのであれば、長期的に安定した生活を確保するために永住権を取得することが理想的だろう。永住権が有れば、ビザの更新さえせすれば無期限に滞在出来て、働く事にも制限が無く、医療保険や社会保障も受けることができる。

永住権の取得要項はオーストラリア政府のウエブサイトを参考にして頂くのが一番だが、永住権にも様々な種類があり、申請者の年齢、職業、資力、英語力等によって、どのタイプの永住権を取得すべき(目指すべき)なのかが異なる。永住権の取得にはある程度の時間と費用が必要だという事は理解しておいたほうがよいし、時間と費用をかけたからといって、必ずしも永住権を取得できるわけではないことも覚悟していた方がよいと思う。それでも永住権を取ってオーストラリアに移住したいという方は、移民弁護士か専門のビザエージェントに相談されることをお勧めする。ビザの種類や申請要項等は頻繁に変更されるので、最新の情報を入手するためにもプロに任せたほうが絶対的に効率が良い。

20年前に学生としてやってきたメルボルン。
高層ビルが建ち並び、大手日系企業の駐在事務所も開設されている。

私がオーストラリアへやってきたのは2003年のことだ。メルボルンにある大学付属の通訳翻訳コースに入学するために学生ビザで来豪した。1年間のコース終了後は帰国するつもりでいたが、「通訳翻訳の国家資格を持っていれば永住権の申請資格がある」ことを知り、チャレンジすることにした。ただし資格に関連した科目のコースで2年間勉強することが要件であったので、「IT翻訳者として働く」との名目で、更に1年間コンピューターの学校に通った。当時の私は30代後半で、その年齢ではメルボルンのような都市部での永住権申請にはポイントが不足していたため、求められるポイントが少ない「地方に2年間住む」ことを条件にした永住権を申請し、2007年、人口500万人のメルボルンから、人口16万人のケアンズに移動した。地方で就職する事も永住権の必要条件だったので、ケアンズでは地元の不動産会社に就職し、それから2年後の2009年に永住権を取得した。オーストラリアに来てから永住権を取得するまでには6年かかったことになる。申請手続きをお願いした移民弁護士やビザの申請費用等に日本円で30万円程度かかったと記憶しているが、それ以外にもビザのために通ったコンピューター学校の学費や、引っ越しのための費用等まで含めると、永住権取得のために費やした費用は日本円で軽く150万円は超えるだろう。

また申請にはIELTSというイギリス発祥の英語試験で、永住権の種類毎によって定められた点数を取得することも求められる。IELTSはTOEICやTOEFLとは異なるので、試験対策をしっかりとして受験に臨む必要がある。英語圏のオーストラリアで普通に生活していこうと思えば、最低限の英語力が必要だという事は覚悟していた方が良い。

オーストラリアの中でも移住する街によって、どんな仕事を見つけられるのか、どれくらい生活費がかかるのか、日本人が沢山住んでいるのか、等の環境は異なる。お子さんの年齢や教育方針に合わせた移住先選びも重要だ。例えばケアンズでは公立校と私立校で学力の差はあまり無いと言われるが、メルボルンでは歴然とした差が有るらしい。家族にとって暮らしやすい場所を選ぶには、様々な角度からその街の特徴をチェックしたほうが良いだろう。

前述のメールをくださった方から「日本人に向いている起業の業種は?」と尋ねられた。すぐに思いつくのは和食屋さんくらいだが、もちろん和食屋さんを開けば必ず成功するというわけではない。オーストラリアで起業を考えている日本人の多くが「オーストラリアに住む日本人、あるいは観光で来る日本人」向けのサービスを試みられるが、どれくらいの需要があるか、利益が見込めるかをしっかりとリサーチしたほうが良いと思う。また逆に「日本独自のサービスの良さをオーストラリア人に伝えるビジネスをしたい」と言う方も多いが、日本で人気の有る物が、オーストラリア人にとって魅力的かどうかも見極めることが大切だ。例えば日本では必需品のウォシュレットのトイレ、「オーストラリアで販売したら喜ばれるだろう」と考える日本の方は少なくないが、衛生観念が全く違うオーストラリア人にとって、日本へ旅行に行った時に遭遇するウォッシュレットを面白いとは思っても、オーストラリアの自宅に備え付けたいと考える人は極めて少ない。私達日本人が「これは良い!」と思う物をオーストラリア人も同じように考えるとは限らない、ということを知ったうえで、どんな業種で起業するかを決めることをお勧めする。

移住をしたいという理由は人それぞれだと思うが、安全で美しい日本を出てまでオーストラリアに来るからには、オーストラリアの生活を、日本での暮らし以上に楽しんで満喫して欲しいと思う。そのためには、豪に入ってはオージーに従え、オーストラリアの価値観を受け入れる努力をすることが必至だ。オーストラリアに長年暮らしている日本人の中には「日本はXXなのにオーストラリアは〇〇で嫌になる」とオーストラリアの価値観を受け入れず、家では日本のテレビばかり見ているという人も少なくない。彼らのオーストラリア批判を聞いていると悲しくなる。「そんなに嫌なら日本に帰れば良いのに」とつい思ってしまう。「子供が英語を話せるようになるために」と移住を希望されている方も多いと思うが、オーストラリアで日本と異なる価値観を学ぶことは、子供達にとっては英語力よりもずっと大きな財産になるのではないかと思う。

私のオーストラリア在住歴は今年で20年になった。移住するつもりなど全く無くやってきたオーストラリアに、予想外に長居することになってしまった。20年住んでも英語は上手くならないし、今もなお、オーストラリア人との価値観の違いに驚愕することも多い。たまに日本へ帰って、美味しい食事をオーストラリアの半額以下の値段で堪能し、四季によって異なる美しい自然美に感動し、大好きな温泉に浸かっていると、「あぁ、私はどうしてこんなに素晴らしい国を出てしまったんだろう」と思ったりもするが、ケアンズに戻って、どこまでも続く青空の下ビーチを散歩し、すれ違った知らない人達と「ハーイ」と笑顔を交わすと、日本に居る時より心も体も軽くなった気がする。日本も良いけど、オーストラリアも良いなぁと思う。これからオーストラリア移住を目指される皆さん、永住権取得は簡単ではないけれど、頑張るだけの価値は有りますよ。コロナ以降、労働者不足の影響で、政府も移民の受け入れに以前よりも積極的だとか。今がチャンスかもしれません。

熊谷 美保

福岡県出身。2003年通訳・翻訳の勉強にオーストラリアのメルボルンへ。 2007年、ケアンズへと移り地元の不動産会社に就職。その後、当時のパートナーと不動産会社DJスミスプロパティを設立し、2017年に単独オーナーとなる。 ケアンズで不動産仲介、賃貸管理業務を行い、日本人のお客様にもご愛顧頂いている。 今は翻訳の仕事から離れているが、いつの日かオーストラリア人作家の作品を日本に紹介するのが夢。

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