翻訳ひといきコラム

翻訳学校のサン・フレア アカデミー

海外だより

2021.12.07

アメリカ人とマスク

友人たちが作ってくれたマスク。ロブスター柄は義母の手作り。夫はこのマスクをつけてレストランに行くと話題作りになるので喜んでつけている。日本では、このような柄物のマスクをつけている人はあまり見なかったように思う。

パンデミック発生から約2年

2021年11月、パンデミックの発生から1年11ヶ月が経とうとしている。しかし世界中どの国でも、このパンデミックが完全に終息したというニュースは聞かない。それどころか様々な新種の変異株(Covid-19 Variant)も出現し、今なお世界中を先の見えない闇の中に閉じ込めている。

アメリカは、今年1月からワクチン接種が進み、一時期は感染者数も減少したが、デルタ株が蔓延し始めてからまた感染者数が増えた。
2021年11月半ば現在、2020年1月からの感染者総数は約4700万人、死者数は76万人余りだ。この数は、アメリカの人口が約3億3000万人なので約7人に1人が感染したことになる。

私の住むオレゴンの11月16日現在までの感染者は、約38万人、死者数4800人。人口比もあるが、全米の4700万人に比べれば、オレゴンの人たちがどれほど忍耐強くこのパンデミック期を過ごしてきたかが分かる。


スーパーマーケットFred Meyerの入り口の看板。


ポートランド空港内にあるカフェスタンドの看板。


IKEAの駐車場にある看板。地面に見える黄色い丸印は、ソーシャルディスタンスの印。

アメリカ人には「マスクをつける習慣」がなかった

さて、アメリカでこのように莫大な数の感染者が出てしまったのはなぜだろう。私は、アメリカ人に「マスクをつける習慣」が全くなかったことが大きな原因の1つではないかと思っている。

私は30年以上アメリカに住んでいるが、このパンデミックまで、街中でいわゆる「普通のマスク」をつけた人を見たことがなかった。
マスクが必要だった人と言えば、医療関係従事者、工事現場の人、アメリカでも信仰に従ってブルカ(Burka)やアバヤ(Abaya)などをつけているイスラム系の女性、そして顔を隠す必要があった強盗?ぐらいしか思い浮かばない。

マスクをつける習慣がまったくなかったアメリカ人にとって、マスク着用は、天地がひっくり返るほどの衝撃的習慣、異文化の受け入れだったことだろう。初めのうち、状況がどうあれ相当の違和感があったに違いない。

日が経つにつれ、コロナ(Covid-19)の研究も進み飛沫感染(droplet infection)が疑われるようになると、少なくともマスクをつけることで少しは感染を防ぐことができるとわかった。感染したくないと思う人は、積極的にマスクをつけ始めた。
しかし、急に需要が増えれば供給が追いつかないのは当然だ。昨年はマスクの購入が難しく、私自身もマスクを全く手に入れることができず途方にくれた時期があった。手作りマスクで対応する人も多かった。幸いに私は、裁縫の上手な友人たちから手作りマスクを何枚もいただき重宝した。今年に入るとマスクはインターネットでも購入でき、どこの店でも手に入るようになった。

しかし、残念なことにアメリカには「反マスク主義者」も多く、地域、宗教、あるいは政党支持によって絶対にマスクをつけないという人もいる。
オレゴンの場合、初期の頃から州政府の方針で、屋内外でのマスク着用が義務付けられた。街のあらゆるビルの入り口で「Mask Required」「Mask Mandated」-マスクの必要・義務付けというサインがつけられた。その為、マスク反対主義者でも買い物をするためにはマスクをつけなければ食品さえ買えない。マスクを忘れた人のためには、マスクを入り口に置く店も増えた。

上がらないワクチン接種率

さて、アメリカでは、昨年1月から始まったワクチン接種率は接種可能人口の68.8%(2021年11月16日現在)だ。日本は78.6%と出ているので、すでに摂取率としては日本に抜かれ、G7中最下位となってしまった。
アメリカの接種率は初夏からあまり上がっていない。しかし、米国疾病予防管理センター(CDC)によると、12歳以上の接種完了率は、カリフォルニアでは80パーセント以上の地域もあるとのことだ。これは、9月から始まった新学期、教室内での授業開始対策には有効だったのではないか。

アメリカで接種率が上がらず感染者数が増えている州は、フロリダ、テキサス、ミズーリ、アーカンソー、ルイジアナ、アラバマ、ミシシッピなどらしい。これらの州は、共和党支持、トランプ前大統領支持者の多い州で、ワクチン接種拒否の人たちが多く、ワクチンも受けずマスクもつけないでいるため感染している人も多い。

夫と私、夫の家族全員は4月初めにファイザー社かモデルナ社の2回目のワクチン接種を終えた。私の友人、知人も全員が5月までに接種を終えたので、その後の感染に対する緊張感はずいぶん緩んだと思う。
アメリカでは、現在「Covid-19 Booster shots(ブースターショット)追加接種」が進んでいるが、4月に2回目の接種を受けた夫と私は、10月初めにブースターショットを受けることができた。


5月初旬、コンベンションセンター(大型接種会場)では、毎日8000人のワクチン接種を行っていた。

制限下での舞台公演

さて、夫の大学では昨年春学期から学校が完全閉鎖され、今年3月までZOOM授業が行われた。夫は昨年、三島由紀夫没後50周年記念の歌舞伎公演を計画していたが、パンデミックで今年まで延期となってしまった。しかし、今年も春までに感染は収まらず、多くの学生が関わってくる歌舞伎公演は無理だとのことで、狂言の実技授業と公演を行うことを決めた。舞台公演については、大学側からの強制的規則が多く大変だったが、無観客、又舞台上だけではマスクを外して良いという許可を得、公演を行うことが決まった。

舞台稽古が始まる5月中旬までに、学生は全員ワクチン接種を終えた。実技練習は少人数で行い、全員がマスク着用で参加した。
私は公演のための衣装係として、学生たちに近距離で衣装を着せるので心配したが、覚悟を決め万全を期して対処した。衣装合わせや公演当日衣装を着せるときは、全員に入り口で新しいマスクをつけてもらい、私とアシスタントの好子さんは、不織布マスクを2枚重ねて衣装を着せた。


大学の教室で、狂言「柿山伏」の練習風景

大学構内で授業を受け、一緒に練習し、狂言を舞台で演じることができたことは、学生たちにとってパンデミック期のこの上ない喜びであったようだ。また当日の舞台は、世界中にURLで同時配信され、日本やオーストラリア、ヨーロッパに住んでいる人たちも観てくれた。


公演舞台「蟹山伏」


公演舞台「呼声」

舞台挨拶が終わった後、学生たちは大きな声で叫び、狂ったように飛び上がり抱き合って喜びを分かち合った。私自身も喜びが溢れ、学生たちがこのパンデミック期をどれほど忍耐強く過ごしてきたかがわかった。ただ衣装係としては、学生たちがパンデミックのストレスからか体重がちょっとだけ?増え、着物や袴を着せるのに苦労した。

下記は2021年5月のポートランド州立大学(Portland State University)の狂言公演のURLである。
Laughing in the Light at the End of the Tunnel: PSU Students Perform Kyôgen Hijinks

マスクは習慣化するか

マスクといえば、今年3月、奇妙に思ったことがある。昨年度、私は日本人学校補習校で中学3年生を担任した。学校は、昨年5月からZOOM授業を開始した。毎週生徒たちの顔をパソコンの画面で間近に見ながら11ヶ月が過ぎた。3月に無事に卒業式を迎え、ZOOMで卒業式を行なった。しかし、「全てをオンラインで終え、担任と一度も直接会わないで卒業するのはかわいそうだ」ということになり、後日学校事務局で卒業証書を手渡すことになった。当日、生徒たちは保護者と一緒にやってきた。しかし、全員がマスクで顔を覆っているので、せっかく会っているのに顔も表情も見えない。不思議な気分だった。ZOOM授業では顔を見ることができたのに・・・、と思った。

この夏、US OpenがNew Yorkで開催されたが、観客でマスクを着用している人はほとんどいなかった。野球のオールスターゲームも満席の観客の多くがマスクなしで観戦していた。アメリカでは、ワクチン接種証明書を提示すれば、多くの人が集まるイベントにマスクなしで入場できるところが増えている。長い間公演ができずに関係者の多くが暗中模索状態だったブロードウェイは、9月半ばワクチン証明書提示とマスク着用で全面再開した。

オレゴンでは、デルタ株の感染者が増えてきたことから、一時解除されていた『Mask Required/ Mandated』が今年9月から人が集まる屋内、そして屋外でも再度義務付けられた。

多くのレストランがすでに営業を開始しているし、今更レストランの閉鎖は難しい。また今まで長い間外食を控えてきた人たちが堰を切ったように外食を始めた。人々はルールに従って外食を楽しんでいる。まずマスクを着用して建物に入り、サーバーが注文を受けるまでは客もマスクをつけているが、食事が運ばれて食べる段階になるとマスクを外す。もちろん従業員はずっとマスクをつけたままだ。オレゴンではレストランでの「ワクチン接種証明書」の提示はまだ義務化されていない。

このパンデミックを通してアメリカに良いこともあった。
インフルエンザや風邪に罹患する人の数が極端に減り、死者数も激減した。これは人との接触が少なくなったこともあるが、アメリカにマスク着用という習慣ができたからではないだろうか。そしてこの習慣はもうしばらく続くだろう。

さて、下記は昨年春Facebookで見つけた写真だ。日本とアメリカの歴史的文化の違いが現れていて面白い。
顔を部分的に覆い隠す場合、日本人は口を覆う。「目は口ほどに物を言う」と言われるように、目で合図を送りながらお互いを確認し合う。
一方アメリカ、または西洋社会では、目の周りを覆うマスクをつける。映画やテレビ、アニメの主人公たちも目を覆っているものが多い。ロミオとジュリエットの物語では、2人は、仮面舞踏会に「Masquerade mask仮面舞踏会マスク」をつけて出会い、恋に陥った・・・。


Facebookより

下記のサイトは、2020年4月パンデミック初期の頃、Facebookで見つけた画像だ。人々は、できる限りの工夫をしてマスクの「代用品」を作った。今では笑い話のような画像だが、マスクがどうしても手に入らなかった時期、未知のコロナ感染から身を守るため、それぞれの人が考えに考えた真剣な自己防衛手段だったに違いない!!

https://www.facebook.com/photo?fbid=10158394550332287&set=pcb.10158394552217287

田中 寿美

熊本県出身。大学卒業後日本で働いていたが、1987年アメリカ人の日本文学者・日本伝統芸能研究者と結婚し、生活の拠点をオレゴン州ポートランドに移す。夫の大学での学生狂言や歌舞伎公演に伴い、舞台衣装を担当するようになる。現在までに1500名以上の学生たちに着物を着せてきた。2004年から教えていた日本人学校補習校を2021年春退職。趣味は主催しているコーラスの仲間と歌うこと。1男1女の母。

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