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海外だより

オーストラリア、ワーキング・ホリデー考察

ケアンズの人気カフェ。ワーキング・ホリデービザの若者が多く働いているが、英語が話せるヨーロッパ出身者が多いようだ。

7月よりオーストラリアの最低時給は24.1豪ドルに上がり(1豪ドル=98円で計算すると約2361円)、現在オーストラリアは世界で一番時給が高い国だと言われている。日本からもお金を稼ぐ目的でオーストラリアへの入国を試みる人が増え、ワーキング・ホリデービザの発行数は過去最多だという。
ワーキング・ホリデービザはビザの申請時18歳以上30歳以下の若者が対象で「相手国・地域の青少年に対し、休暇目的の入国及び滞在期間中における旅行・滞在資金を補うための付随的な就労を認める制度」だと外務省のウエブサイトでは紹介されている。

滞在期間は通常1年間だが、条件によっては3年間まで延長できるらしい。
コロナ禍以前にワーキング・ホリデービザでオーストラリアを訪れる若者は、語学学校へ通ったり、短期の仕事を経験しながら、オーストラリアを周遊するといった人達が多かった。片言の英語で広大なオーストラリアを移動しながら、地元の人達と生活を共にし、世界中から来ている人達と友情を築く。私自身は若い頃にワーキング・ホリデービザで海外に滞在した経験が無いので、バックパッカーを背負い、まだ見ぬ土地を目指す彼らが羨ましくて仕方がない。20代に戻れるものなら、ぜひやってみたいし、ワーキング・ホリデーという制度は素晴らしいと思う。
ただ、現在話題になっている「ワーキング・ホリデーでオーストラリアへ出稼ぎに」という風潮は、ワーキング・ホリデーの趣旨から外れてきているように感じる。「出稼ぎワーホリ」という言葉を初めて見た時はショックだった。「出稼ぎ」という言葉から私が連想するのは、終戦後の就職難に地方から都会へ「出稼ぎ」に行った人達とか、雪国の人が冬の間は「出稼ぎ」に出るといったもの。「海外で出稼ぎ」といえば、後進国の人が先進国へ働きに行って自国で待つ家族にお金を送る、といったイメージだ。日本経済が低迷しているとはいえ、先進国に住む日本人が、海外へ出稼ぎに行く必要が有るのだろうか?

仕事仲間でもある元オーストラリア大使館勤務、現在は東京でビザ・コンサルティングの会社を経営する足利弥生さんから「日本人のワーキング・ホリデービザ取得者の質が落ちていると、オーストラリア側が苦慮している」と聞いたのは昨年の暮れだった。私の身近にはワーキング・ホリデービザの若者はいないので、その話を聞いた時はピンとこなかったが、最近の報道等を見ていると彼女が言わんとしたことがわかってきた。

先日「地元のボランティア団体が開く生活困窮者のための炊き出しに、ワーキング・ホリデーで来た日本の若者が沢山並んでいる」と報道された。顔は隠してあったが、日本人と思しき若者がかなりの数、列に並んでいた。皆、身なりも良く、携帯を片手に友達と談笑していた。インタビューに答えた日本人男性は「レストランの仕事で月に30万円程度の収入が有るけれど、節約のために炊き出しに来ている」と答えていた。世界で一番時給が高いオーストラリアは当然ながら物価も高く、地元の人の生活もラクではない。本当に困っている人のために催された炊き出しに、節約を目的に無料で食料を貰っていくというのは短絡的で自分勝手な行動だ。彼らは日本でホームレスのために催される炊き出しにも並ぶのだろうか?それとも「旅の恥はかき捨て」で、オーストラリアでは許されると思っているのか?多くのオーストラリア人は日本人は勤勉で控え目だというイメージを持っているが、こんな事が続けば彼らの日本人に対するイメージも変わってしまうだろう。

現在オーストラリアは深刻な住宅不足で、ワーキング・ホリデーの若者の多くもシェアハウスを探すのに苦労しているという話はメディアでも報道されているが、ケアンズに暮らす日本人の友人(仮名・A)が、先日ワーキング・ホリデービザで滞在している女性(仮名・Bさん)から聞いた話を教えてくれた。20代半ばのBさんが部屋を借りているのは2階建ての住宅で、1階には住宅オーナーである50代のオーストラリア人男性が住み、2階には日本人の女の子が数人暮らしている。2階に住めるのは日本人の女の子限定で、オーナーの男性以外は男子禁制。オーナーには他の場所に暮らすパートナーがいるが、パートナーがケアンズに居ない時には2階の女の子達を遊びに連れて行くという。BさんはAに「良い家が見つかって本当に良かった。私達、親切なオーナーに恵まれてラッキーです」と言ったらしいが、Aも私も「そのオーナー、おかしい」という意見で一致し、Bさんの感想を残念に思った。もしも東京で「2階建ての家の1階に自分が住み、2階にはアジア出身の女の子だけを住まわせて自分以外は男子禁制にし、自分のパートナーが居ない時は女の子達を遊びに連れていく」という日本人男性がいたら、Bさんはその男性をどのように見るのだろうか?白人男性というだけで、好意的に評価する日本人女性は少なくないし、そんな日本人女性をコントロールしようとする白人男性も珍しくない。残念ながら「日本人女性は英語を話せず、NOと言わない」と思っている豪人男性も多いという事を認識し、しっかり自分の身を守って欲しいと思う。

YouTube等でもオーストラリアにワーキング・ホリデービザでやってきた人達の動画が多く挙げられているが、「仕事で〇〇ドル稼ぎました!」と成功談としての投稿や、「仕事が見つからず物価も高く生活は大変」と失敗談としての投稿等を見ると、「お金を稼げなければ、オーストラリアに来たのは失敗」と考えている人が多いようで残念だ。 20代に得た経験や人脈はお金には替えられない一生の財産になる。体力が有って感受性の強い若い時期だからこそ体験できる事や学べる事があり、その後の人生を変える気付きや出会いがきっと有る。「オーストラリアでいくら稼いだか」よりも「オーストラリアで何を学んだか」の方がずっと大切だったと年を取ってからわかるはずだ。

足利弥生さんがオーストラリアの日本語情報メディアに掲載しているワーキング・ホリデービザに関するコラムは、ビザの歴史や意義、セカンドビザの取得条件、オーストラリアに来る前の準備、ワーキング・ホリデービザで渡豪した人の体験記等が紹介されていて、将来ワーキング・ホリデービザの取得を考えている人にはぜひ読んで貰いたい内容だ。「出稼ぎワーホリ」なんて言葉は返上し、ワーキング・ホリデーの真の目的に立ち返ってオーストラリアへ来て欲しい。

 

熊谷 美保

福岡県出身。2003年通訳・翻訳の勉強にオーストラリアのメルボルンへ。 2007年、ケアンズへと移り地元の不動産会社に就職。その後、当時のパートナーと不動産会社DJスミスプロパティを設立し、2017年に単独オーナーとなる。 ケアンズで不動産仲介、賃貸管理業務を行い、日本人のお客様にもご愛顧頂いている。 今は翻訳の仕事から離れているが、いつの日かオーストラリア人作家の作品を日本に紹介するのが夢。

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