翻訳ひといきコラム

翻訳学校のサン・フレア アカデミー

海外だより

2022.04.25

パンデミック下の日本帰国〜私の場合③

朝焼けの中、シアトルに向かう飛行機の中から見えるMt.HoodとColumbia Riverはとても美しかった。

ベルギーに住んでいる妹は、昨年11月半ばに配偶者ビザでアメリカ人の夫と一緒に熊本の母に会いに行った。そして、10月末に救急入院していた母がずいぶん弱って来ていると伝えてきた。私は帰国しようと決め、夫の配偶者ビザ取得も進め航空券も予約した。

2021年12月〜3度目の帰国

夫は、12月半ばの日本行きチケットを購入していた。しかし、突然のオミクロン株出現で、外国人の「配偶者ビザ」を取得していても日本居住者ではない短期滞在者は日本入国ができないとわかり、日本行きを諦めた。クリスマスと年末年始を日本に住む子供たちと過ごすことを楽しみにしていたので、本当に残念そうだった。

結局、私はまた一人でポートランドからシアトル経由で日本に行くことになった。

12月14日朝7時発のシアトル行きに乗るために、私は5時にポートランド空港に着いた。着いてびっくり!!まだ12月半ばだし、早朝の5時なので空港にはあまり人がいないと思っていた。しかし、空港は渋谷の交差点並みに混雑していた。まだクリスマス休暇前なのにこの混雑は何?今までコロナで我慢していた人たちが旅行や年末の休暇を過ごすために早めに動き出したのだろうか。

自分の飛行機の出発まであと2時間ほどあるけれど、これからチェックインして間に合うのだろうかと不安になった。

ゲートに行くことができたのは、出発のボーディング直前だった。日本の空港のように、係りの人が出発時間が近づいた人を先に通すことはない。遅れて乗れなかったら「自己責任」だ!!

ガラガラの飛行機でも運行されている国際線に感謝!

シアトルから羽田までの乗客は、450人乗りの飛行機に今回も50人ぐらいだったろうか。私の前後左右の席には誰もいなかった。

同じ飛行機にどのような人が乗っていたのかは、羽田空港でいろいろな書類の検査やPCR検査を受ける段階で少しわかる。外国人は5、6人もいただろうか、アメリカの軍関係の人のようだった。


日本帰国時空港で配布される書類の多さ〜時差ボケと疲れの中、
帰国した人がこのたくさんの書類を読むのだろうか。

ある4人家族のホテル隔離の大変さ

2021年5月、デルタ株の蔓延から海外からの帰国者のホテル隔離が始まったが、オリンピック後、オレゴンからの帰国者の「3日間ホテル隔離」はなくなっていた。しかし、12月初めにオミクロン株の感染が大きな問題となると、また感染者が多く出た国やアメリカのいくつかの州からの入国者に対して3日〜14日間のホテル隔離が始まった。

私は今回も3日間のホテル隔離を回避できた。しかし私の帰国後10日目ぐらいから、アメリカ全土からの日本人帰国者は、3日間から14日間(感染者数で州によって違う)の強制隔離が決定された。もっとひどいと思ったのは、飛行機内に1人でもオミクロン株に感染している人がいたら、日本政府がその飛行機に乗って帰国した人全員*、14日のホテル隔離を強制したことだ。この場合、滞在費および食費は国が負担しているので、個人負担はないが国の税金をどれほど使うのだろうと思った。

*この場合、パイロットや客室乗務員は隔離が適用されないとパイロットの家族を持つ友人から聞いた。

日本に帰国後、ある夜テレビのニュースを見ていたら、家族四人で帰国した父親がホテルからZOOMでインタビューを受けていた。

同じ飛行機内にオミクロン感染者がいたので家族全員14日間の隔離になってしまった。当初空港で、「ホテルでは、4人家族の場合2人ずつに分かれて滞在してください」と言われたが、子供は生後まもない乳児とじっとしていられない幼児の息子たち。ホテルに監禁されたら一歩も室内から出ることができない。食事もドアの外に置いてあるそうだ。「2人ずつに分かれたらお互いに会うことさえできない。自分はリモートで仕事があるのに、2週間もの間どうやって子供の面倒を見ながら生活できるかわからない」と苦情を言ったら、1部屋に4人を入れてくれたそうだ。しかし、入国時、3日目と6日目に家族全員PCR検査を受けて陰性だったにも関わらず、「2週間が終わる1月4日まで隔離は解除できない」と言われたと嘆いていた。年末年始を日本の家族と一緒に過ごそうと小さい子供たちを連れて帰国したのに・・・、その家族にとっては、機内のどこかにただ1人の感染者がいたために降って湧いた災難!まるで拷問のようではないか?

私は、PCR検査も陰性だったので、比較的早めに空港を出ることができ、予約していたハイヤーで目黒区に住む息子のところに行った。ハイヤーは、都内はまだ一律料金15,000円だった・・・。

携帯に入れられたGPS―大活躍の皮肉

夏の帰国時と同じく今回も「位置確認」と「顔認証」のためのGPSを携帯に入れられた。初めの1週間は、朝健康チェックの知らせを自分で厚労省に報告すると、午前中1回、午後1回の位置確認、そしてもう1度「顔認証」の連絡確認が1日合計4回あった。

驚いたことに、顔認証は「AI?」コンピューター音声になっていた。夏の帰国時に私が確認電話をかけて来た担当者にボロクソに文句を言ったので*AIになってしまった?まさかそんなことはあるまいが、これもまた自分の携帯に向かって顔を見せながら黙って30秒間じっと写して終わり!不愉快極まりないが、AI相手では文句も言えない!ふん!

*パンデミック下の日本帰国〜私の場合②参照

2週間目に頻度が増える厚労省からの確認連絡

厚労省からの確認連絡は、後半の2週間目になると1日3回の位置確認、そして午前と午後の顔認証が2回入る。自分で健康状態の報告を入れると合計“6回”だ!2週間目のこのチェックの多さは何のため?帰国者に対する嫌がらせ?

私がアメリカ出国前と羽田空港でPCR検査を2回受け陰性でも、コロナワクチンの3回目を受けていても全く関係ない!もし日本帰国時にどこかでコロナに感染していたら、1週間目に何かの症状が出るはずだ。隔離期間中誰にも会わずにいるのに、2週間目になってこれほど頻繁に厚労省から連絡が入るのは、なんの意味があるのだろうかと思った。この2週間目の隔離とコロナ感染チェックも税金の無駄遣いとしか思えない!

2週間の隔離を終え、コロナにも感染していないようなので、12月31日、私はお正月を実家で過ごすために熊本に向かった。

アメリカ〜コロナ感染者数1日100万人超え!

2022年1月5日、アメリカコロナ感染者数が1日108万人と言うニュースを日本に滞在中に見た。驚くと言うより、この数字は本当だろうかと疑った。1月7日は約90万人。もちろん年末年始の休暇を終えて検査した人の数が多くなるのは想定できるが、この数の多さは・・・。昨年12月に出現した新種のオミクロン株が、デルタ株に比べ感染力が異常に強いからだと言われている。この時期、アメリカの「ワクチン接種拒否者」、つまり一度もワクチンを受けていない人のオミクロン株感染が急激に増えたと言われている。

1月末のアメリカでの総感染者数は約7,300万人、死者数は約89万人。アメリカ人の4.5人に1人が感染したことになる。3月初旬の総感染者数は約7,900万人、死者数は約95万人。ちなみに日本の3月初旬の総感染者数は、540万人、死者数約25,000人。

外務省海外安全 ホームページ

日本人の海外在住者で在住登録をしている人には、必要に応じて外務省から「海外安全 ホームページ/【広域情報】新型コロナウイルス感染症に関する新たな水際対策措置」というのがメールで送られてくる。この情報を頼りに自分の帰国時の状況を判断する。

私は、今回の帰国に関してポートランド領事館に連絡してもわからないことがあったので、アメリカから3度日本の厚生労働省の帰国者関連の電話番号に電話した。

すご〜〜〜い!!すぐに男性が電話に出て対応してくれた!!わからない事項については、外務省の入国関連の電話番号も教えてくれた。アメリカでは絶対にありえない!!この電話対応をしてくれるサービスは日本の素晴らしさだと思った。

パンデミック下の政府による給付金

あ〜そう言えば、日本ではコロナ下の国民救済手段の一つとして、2020年夏に政府から一人当たり10万円が給付されたことがあったな〜。私は日本でも住民票を保持し、国民健康保険料なども払っているので、配布していただけた。よかったなぁ〜。そして、春先には受け取った側の“感謝度が”低かった「アベノマスク」もいただいたなぁ〜。このマスクは、その後保管費用だの廃棄処分費用だの、無料配布の送料代金などの問題が出てきたようだが、どれほどの国民の税金が使われたのだろうと思った。

一方アメリカでは、給付金が国民全員に3回に分けて支払われた。1度目は、2020年春、トランプ政権下では、1世帯の総収入が15万ドル(約1800万円*)以下の家庭に、一人当たり1,200ドル(約14万円)が送金された。その後、2021年1月にバイデン政権に変わった後も一人当たり600ドル(トランプ政権下で可決された)、そして最後に1,400ドル、合計3回配布された。つまり高収入家庭以外の世帯には“一人当たり40万円弱”がトランプ政権、そしてバイデン政権を通して支払われたことになる!!

どれほどの人が助かったことか?もしお金の代わりにガーゼのマスクを送られていたら、アメリカでは暴動が起きていたかもしれない!税金を納めている意味を感じた人も多かったのではないだろうか?

*1ドル=120円で換算

アメリカへ帰国

2月初旬、私は7週間余りの滞在を終え、アメリカに帰国した。アメリカへ入国するのには、飛行機に乗る前日に受けたPCR検査の陰性証明書とワクチン接種証明書の提示がアメリカ政府によって義務付けられていた。

私は、昨年夏にPCR検査を受けた神田にあるクリニックがとても親切で値段も一律15,000円と比較的安かったので、またそこで検査を受けようと思っていた。ところが月曜日に飛行機に乗るには日曜日に検査を受けなければならない。このクリニックは週末には休診している。大慌てで他の検査所を探した。都内の50ぐらいの病院やクリニックを調べたが、週末休診が多く見つからない。たまたま受け付けているクリニックは2万円〜4万円とぼったくりのように高い!PCR検査になんでこのような値段の違いが出るの?

結局浜松町にあるクリニックに決めたが、インターネットPCR検査の表向き情報は14,000円と表示されているのに、よく調べると検査証明書代金4,000円、メールにてPDFの検査証明書を送る代金4,000円が加算されている。メールを送るだけに4,000円?

合計20,000円の上に税金10%の2,000円が加算され、22,000円を支払った・・・。

アメリカ行きの飛行機は、フライトアテンダントの話では47名の乗客だった。今回はほとんどがアメリカ人帰国者で日本人は5名ほどだった。シアトル空港で入国審査を受けた。

審査官が私に尋ねた。

「How long did you stay in Japan?」
「About 7 weeks」
「Why did you go there?」
「My 94-year-old mother got very ill, so I went to see her…」
「I’m sorry to hear that…」

たったこれだけの取り調べ会話だった。飛行機搭乗前日のPCR陰性証明とワクチン3回接種証明書の効力は強く、自主隔離についても何も言われなかった。なんと簡単なことか・・・、また、一枚の書類も手渡されなかった!私は、そのあとポートランド便に乗り換えて帰宅した。

1月半ばに94歳の誕生日を迎えた母は、また少し元気を取り戻しこのパンデミック下を生き延びてくれている。私が大晦日に実家に戻った時、ほとんど話をしない母が言

った:

「寿美がせっかくアメリカから会いに帰ってきてくれるのに、私がボケてしまっていたらかわいそうだと思って、ボケないように一生懸命しっかりとしていたよ」
感謝。

パンデミック下の2月末、ロシアによるウクライナ侵攻が世界を驚かせた。ある日突然自分の住むところを追われ、家族が命の危険にさらされる。なんと恐ろしいことだろう・・・。

この戦争が1日も早く終結すること、そして世界が平和であることを願ってやまない。

追記:
屋内外のマスク着用、ワクチン接種証明書の提示の義務化は、オレゴン州では3月12日に、そして3月末には全米で撤廃された。

田中 寿美

熊本県出身。大学卒業後日本で働いていたが、1987年アメリカ人の日本文学者・日本伝統芸能研究者と結婚し、生活の拠点をオレゴン州ポートランドに移す。夫の大学での学生狂言や歌舞伎公演に伴い、舞台衣裳を担当するようになる。現在までに1500名以上の学生たちに着物を着せてきた。2004年から教えていた日本人学校補習校を2021年春退職。趣味は主催しているコーラスの仲間と歌うこと。1男1女の母。

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