第84回 IT(和文英訳)
山口さん
1.自己紹介をお願いします
山口と申します。この度IT分野の日英翻訳で合格し、翻訳者登録をさせていただきました。現在は、正確・明快・簡潔な訳文を提供できる日英技術翻訳者を目指し、日々勉強しております。
2.受検した言語の学習歴を教えてください
英語を本格的に勉強し始めたのは大学2年生の時です。それまで英語は大の苦手科目だったので、最初はdoとdoesの違いがわからないくらい悲惨な英語力でした。しかし、はじめて英会話の授業を受けた際、ネイティブに英語で自分の意思が伝わったことに大きな喜びを感じ、それを続けていくうちに英語でのコミュニケーションが楽しいと感じるようになりました。その結果、英語が好きになり、勉強が毎日の習慣になりました。はじめは話す方が好きでしたが、論理的に情報を展開する英語の文章に魅力を感じ、徐々にライティングの勉強にフォーカスするようになりました。最近は、興味のある論文があれば、生命科学、物理科学などの分野を問わず読んだり、工業英検の勉強をしたりして英語力を磨いています。
3.翻訳の学習歴を教えてください
ほとんど独学で勉強してきました。経済的な理由もあり、勉強を始めた頃に2ヶ月くらいの短期のコースを受講して以来、スクールには通っておりません。勉強法としては、技術英語やテクニカルライティングに関する書籍を多数読み、良い英文を書くためのルールを理解した上で、それらを訳文に適用する練習をしています。
テクニカルライティングの概念には翻訳を勉強する中で出合いました。技術文書では、意図する内容が正確・明快・簡潔に伝達される必要がありますが、テクニカルライティングはそのような文書を作成するための技法です。具体的には、「能動態で書く」、「無意味な単語や句を減らす」、「パラレリズム(並列主義)を使う」、「長い文は短く区切る」などのルールがあり、どれもシンプルで、読み手の理解を助けるためのものです。現在は、難解な文章にもこれらのルールを適用し、なるべくわかりやすく表現できるように努めています。また、リライトの段階で、さらにわかりやすくできる方法が見つかることもよくあり、とても面白いです。このようなルールは、英語表現のインプットのために読む英文を精査する際にも役立っています。
4.何がきっかけで翻訳者を目指そうと思いましたか
きっかけは大学時代の卒業論文です。全て英語で執筆しておりましたが、日本語の文献から引用することが多く、引用文を英語に翻訳する必要がありました。その作業がすごく楽しかったんです。脳をフル回転させて絞り出した訳文が出来上がった時は、大きな喜びと達成感を感じました。また、勉強を進める中で英語のライティングが大好きになり、執筆中にフロー状態に入ってしまうこともよくありました。そこで、なんとかこれを仕事につなげられないかと考えたときに、翻訳という仕事が浮かびました。日英翻訳者になれば、大好きなライティングが使え、さらに様々な知識に触れることもできるので、好奇心の強い自分にはうってつけの職業だと感じました。
5.TQEを受検したきっかけは何ですか
ほとんど独学だったので、一度自分の翻訳を第三者の目で評価してもらう必要があると感じました。TQEは合否判定だけでなく、審査員の方から訳文に対するコメントもいただけるとのことでしたので、たくさんダメ出ししてもらって、自分の課題を把握して、また頑張ろうという想いで受験しました。
6.TQE合格のために苦労した点、悩んだ点はどういったことでしょうか
馴染みのない技術を短時間で理解し、適切に訳すのに苦労しました。また、曖昧な日本語や、複数の意味に取れる日本語を正確に理解するのも大変でした。定訳の見つからない用語の訳語選択にもとても悩みました。
7.苦労した点、悩んだ点はどのように解決されましたか
技術は、インターネットで動画や説明文などを検索し、何をするものなのか、どのような仕組みで動くのかを具体的なイメージで理解するようにしました。訳語選択は、完全一致検索でヒット数の高いものを優先的に選ぶようにしたり、論文を検索して良さそうな表現が使われていないか調べたりしました。また、複雑な文は、情報を整理して短く区切るなどして対応しました。その際、文同士のつながりを何度も確認し、スムーズにつながっているか、論理の飛躍がないかなどをチェックしました。
8.合格した分野を受検するために参考にした書籍等はありますか
科学技術系の英文ライティングだと『技術系英文ライティング教本』、『英語論文ライティング教本』、The Elements of Technical Writing、Technical Writing and Professional Communication for Nonnative Speakers of Englishなどの書籍が非常に参考になりました。また、工業英検1級・2級の過去問は、翻訳だけでなく、英語のレトリックも学べるので非常に有益です。良い英語表現のインプットには、自然科学誌Natureに投稿される論文のアブストラクトを日英で対比しながら読むと効率よく勉強できました。英文ライティング全般だと、『日本人の英語』やStyle: Toward Clarity and Graceなどの書籍が非常に参考になりました。IT分野の勉強は、ITパスポートなどの資格対策本で基礎を押さえつつ、話題の技術は英語の説明動画を見たりして勉強しました。ウェブサイトは『英辞郎on the WEB Pro』をよく活用しました。
9.翻訳者としてのこれからの計画を教えてください
TQEに合格できたことは嬉しく思いますが、プロにはまだまだ程遠いなと痛感しております。訳文の正確性を高めること、そして作業スピードを上げることが自身の今後の課題であると感じています。正確性を欠くことは技術文書では致命的なので、専門分野を勉強したり、文書ごとのスタイルを勉強したり、調査を徹底するなどしてミスをなくしていきたいです。まだまだ修行が必要ですが、いつかネイティブにもノンネイティブにも伝わる国際英語を書き、日本の技術発展に貢献できるような翻訳者になりたいです。
10.TQE合格を目指す方々にメッセージをお願いします
楽しみながら勉強されるのが一番だと思います。その中で自分なりの指針を見つけて、どのような翻訳がしたいかが明確になると勉強がはかどると思います。毎日の勉強にはスマホの単語帳アプリで短い文の対訳を作り、細切れ時間を活用して勉強すると、手間がかからず習慣化しやすいのでオススメです。私も翻訳者としてはまだまだ未熟で、これから実務を通して学んでいこうという身です。お互い頑張りましょう。