通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。
回答は、「はじめての翻訳文法」担当講師の、山口正晴先生です。
- 去年の夏に山口先生の文法セミナーを受講し、自分の文法解析能力のなさを痛感してこのはじめての翻訳文法を受講しました。翻訳力を上達させるにはやはり量をこなさなくてはならないのでしょうか?コツをおさえて効率的に身につける方法はないものかと模索しております。
- おっしゃるとおり、とにかく英文を読んで日本語に訳さなければ、実用に耐える翻訳力は身に付きません。自分の訳文を訳例と比較して修正する作業も不可欠です。
私自身は翻訳の勉強を始めた頃、A4で5枚くらいの英文を訳した後に訳例を見ながら赤入れし、1~2ヶ月ほどおいて同じ英文で同じ作業を行うという手順を3回ほど繰り返しました。その結果、「訳し方」や「訳語」を習得し、訳例に近い訳文を作成できるようになったのです。
テキストの課題を繰り返し読み込み、その中の単語やポイントをまとめてみるのもよいと思います。
- 自分で単語帳を作成しなくてはと思っていますが、お薦めの方法はありますか?
- Excelシートに単語をまとめる方法も効果的かと思います。
ちなみに単語だけではなく、動詞の語法(たとえば「load A with B」)にも力を入れてください(学習者の多くは、動詞の語法に関する知識が不足しています)。
語法の知識を増強すると英文読解力が向上し、前置詞の知識も獲得できます。英文に出てきた重要な語法を拾い上げ、知識を増やしていきましょう。ただし、こればかりに専念してもあまり効果はないので、翻訳作業の一部として取り組んでください。
- 文構造で迷った時のために文法書を一冊購入したいと思っています。どのような文法書がよいでしょうか?
- 「ロイヤル英文法」(旺文社)や「英文法解説」(金子書房)がお勧めです。 あちこちのページを開いて調べているうちに、重要な翻訳ツールとして使いこなせるようになるでしょう。巻末の「索引」を活用すると、知りたいことが素早く見つかります。
- どのようなときにカンマが必要なのでしょうか?自分の回答ではカンマを入れませんでしたが、解答例ではカンマが入っていました。
カンマの有無によって意味が変わりますか? - カンマは意味の区切りで使うほか、筆者が長いと感じたときに息継ぎの意味で置くこともあります。どちらの使い方なのかは文脈で判断するしかありませんが、英訳については、意味の区切りにのみカンマを使うという方針でよいでしょう。
【例】
「従属節」+「主節」の順になっている場合は両者間にカンマを置く必要があるのに対し、「主節」+「従属節」の順になっている場合はカンマを置かないこともあります(前の主節が長ければカンマを置くことがあります)。
「If+S+V~, S’+V’….」ですが、「S’+V’…if+S+V~.」になります。
- 1文が5行に及ぶような長い英文は区切ると訳文が読みやすくなると思うのですが、適切な位置で区切るポイントはありますか?
- 論文については、よほどの理由がない限り、長文でも切らずに翻訳します。「わかりやすさ」が優先される一般向けの翻訳では、原文を区切って訳すこともありますが、どこで区切るかは文脈次第です。
- 動名詞(TEXT1 P-72)について、動名詞の意味上の主語を置く場合、所有格と目的格はどのように使い分けるのでしょうか?
- 使い分けはなく、どちらも使うことができます。
原則としては所有格を置くのですが、動名詞の意味上の主語が動詞や前置詞の後に続くために、この意味上の主語がその動詞や前置詞の目的語のように感じられて、いつの間にか目的格が使われるようになったようです。
ただし、動名詞が文の主語で使われている場合は、所有格を使わなければなりません(上記のように目的格が使われるようになった位置ではないため)。
【例】Man’s landing on the moon was a great accomplishment.
- TEXT1 P-16について、「have+O+原型」と「get+O+to不定詞」、「have+O+過去分詞」はどのように使い分けをするのでしょうか?
- 「have+O+原型」と「get+O+to不定詞」は同じ意味です。どちらを使われてもかまいません。「Oに~してもらう」を表します。
「have+O+過去分詞」は、Oと、過去分詞にする元の動詞が受動態の関係になる場合に使います。「Oを~される」または「Oを~してもらう」「Oが~される」などを表します。
【例】I had my purse stolen in a crowded train. 「私は混雑した列車の中で財布を盗まれた」
- TEXTの中で「インターネット」という言葉が出てきます。 一般的なものを指して説明しているように感じ、冠詞のtheは付けずに“Internet ”と英訳するのですが、回答例ではいつも、theが付いています。 和文の中で特定のものを指して言っている言葉と、一般的で全体的なものを指して言っている言葉はどのようにして見分けたら良いのでしょう?
- 「インターネット」はいつでも「the Internet」と訳します。これは慣用的に決まる類の用語ですから、覚えておきましょう。
特定のものと一般的なものの区別は、英文でも和文でも文脈から判断するしかないことです。ですので、和文英訳の場合は、どちらと判断がつかない場合があり、その場合は2通りの英文が書け、いずれも正しいという場合があります。
【例】「コンピュータの使い方を教えてください」
話をしている当事者の前にあるコンピュータのことを指していると解釈すれば、
「Please tell me how to use the computer.」
一般的に言っていると解釈すれば
「Please tell me how to use a computer.」と2通りの英文が考えられます。
このように、日本語から複数の解釈が出来る場合には、解答も複数あるものです。通常は前後の文脈から判断します。
なお、冠詞については下記の書籍が参考になります。
『英語のなかの複数と冠詞』小泉賢吉朗著(The Japan Times)
- 英訳する際に可算名詞を複数表現にする基準等はありますか。
「~達」と書いてあれば複数形で書けますが、一般的に日本語で表現されていない場合にはどうしたら良いでしょうか。 - 生物の場合は複数形が一般的ですが、「コンピュータ」などの機械装置の場合は、単数形のほうが一般的なようです。
生物には個体差がありますが、機械装置は、同一製品であれば品質が均一なので、こういう違いによるのではないかと思われます。もちろん、文脈から「一頭」「一匹」「一台」の場合や、逆に複数のほうが妥当と考えられる場合は別です。
上記の区別は、あくまで「動物」や「機械」について一般的な内容を表す場合です。
また、「crime」のように一般的な意味で使う場合と、個々の具体的な例で使う場合で、不可算名詞と可算名詞を使い分けるものがあります(これは、我々日本人には分かりにくい場合が多いですが、多くの例に接してある程度理解していくしかない問題です)。
他に、「poetry」と「poem」「machinery」と「machine」「scenery」と「scene」などもあります(前者が不可算名詞、後者が可算名詞)。
どの場合も、理解のポイントは「一般的な意味」で使われているのか、「個々の具体的意味」で使われているのかの違いです。
- 前置詞+関係代名詞があまり理解できません。どのように理解すればよいでしょうか。
- この形ができるのは、何かの前置詞の目的語の名詞が、関係代名詞の先行詞になる場合です。
下記のように順番に考えていくと良いでしょう。
【例1】
「This is the house.」+「He was born in the house.」
→This is the house which he was born in.
次のこの「in」を関係代名詞の前に出して→This is the house in which he was born.
【例2】
「The velocity of light changes considerably, depending on the medium.」
+「Light is passing through the medium.」
→The velocity of light changes considerably, depending on the medium which it is passing through.
この「through」を前に出すと、
→The velocity of light changes considerably, depending on the medium through which it is passing.
- 英文中の数字を和訳する場合、漢数字(一、二、三・・・)と数字(1,2,3・・・)のどちらを使用するべきなのでしょうか。
- クライアント、または翻訳会社から指示がありますのでそれに従って使い分けます。
- 英文を和訳する場合、和製英語はどこまで使用して良いのでしょうか。
- たとえば、the priority seatを「優先席」ではなく和製英語の「シルバーシート」と訳すようなことをおっしゃっているのですね。
原文通りで日本語として十分通用するのであれば、それを使うほうが良いのですが、日本語ではあまり広まっていないため、原文のままでは読者にわかりにくいと判断される場合は、和製英語を使ってかまわないと思います(実際にはケースバイケースです)。
- 譲歩・対象を表すWhileが文中にある場合、While節を先に訳す等の決まりはあるのでしょうか?
例えばTEXT1 P-34では、
(4-28)While I like the shape of the bag, I don’t like the color.
「私はそのバッグの形は気に入っているが、色が好きではない。」とWhile節が先に訳されています。
(4-29)He has nothing to spend money on, while I have no money to spend
「彼にはお金があっても使い道がないのに、私には使うお金がない。」とWhile節が後に訳されています。 - (4-28)のように、「While+S+V~, S’+V’….」では、後半の方にウエイトがきますので、「色が気に入らない」のほうが強調されます。
しかし(4-29)のように、「S+V~, while+S’+V’….」では、対等のウエイトが置かれていますので、どちらかのみが強調されないように、「~であるが、…である」くらいの訳し方をします。ただし、文脈から、前半を強調したほうがよいと判断されるときは、後ろから訳すということもあります。
- 訳に関して何かあれば「訳注」をつけると聞きましたが、どんな小さなことでも(例えば意訳をした時も)訳注はつけた方がよいものなのでしょうか。
- 「直訳」では原文の正確な意味が読者に伝わらないと判断される場合「意訳」は必要なことです。したがって「意訳」に関しては必ずしも「訳者注」に取り上げる必要はありません。
ただし、必要があって、原文の一部を訳さなかった場合は、取り上げたほうが良いです。また、原文が誤りだと思われる場合、印刷ミスと考えられる場合、単語が辞書やインターネットで調べても全く見つからない場合も訳注が必要です。
- できるだけ正確な語法で書かれた文章で学びたいのですが、雑誌を読むのは翻訳の勉強に向いていますか?
- 個人語や雑誌の色が出すぎるような雑誌はあまり好ましいとは言えません。専門誌を英文で読み、その中から専門用語や分野に特化された表現を学ぶようにしましょう。
- 「ですます」や「である」はどのように使い分けるべきなのでしょうか。
- A16 「固い表現」が好まれる研究論文や特許明細書の翻訳では「である」調、「柔らかい表現」が好まれる、例えば「製品マニュアル」の場合は「です、ます」調を使い分けます。
ただし、これはクライアントや翻訳会社から指示がある場合がほとんどです。
- 和訳する際のポイントのひとつは「できるだけ原文に忠実に訳す」とのことですが、TEXTの例で少しひねった訳をしている場合もあるようです。
どういった場合に少しひねった訳をし、どういった場合に原文に忠実に訳す(直訳する)べきなのでしょうか。 - できる限り原文に忠実に訳すことが求められますが、そうやってできた訳文が不自然な場合や、読者に原文の内容が正確に伝わりにくい訳文と判断される場合は、訳に工夫が必要であり、意訳も必要です。